さて、木の葉が払われて見晴らしのいい二月は、野鳥観察には最適な季節です。ガンカモ類が多くてにぎやかな水辺も楽しいのですが、林や枯野、休耕中の水田などもなかなかにぎやかなものです。スズメの仲間でありながら小型の猛禽として知られるモズも、平地や暖地ではもとからの留鳥に加えて、寒冷地や高地から国内渡りをしてくる個体もあり、その姿を見かける頻度が高くなります。
モズ(百舌 鵙 Lanius bucephalus)はスズメ目モズ科に属する、体長20センチほどの小鳥です。オスには黒く太い過眼線があり、メスにはほとんどないこと、高鳴きなどの囀り(さえず)をするのがオスで、メスはほとんど鳴かないなど、性的二型はかなりはっきりしています。
体格はツグミやヒヨドリよりも小さいのですが、ずんぐりとした大きな頭部と、先端がかぎ状に曲がった強力なクチバシを有し、シジュウカラやスズメなどの小さな鳥は勿論、自分よりもずっと大きい獲物を襲い、強いクチバシと発達した首の筋肉で獲物を振り回し、絶命させてしまいます。
モズと言ってまず思い浮かぶ特徴は、早贄(はやにえ)と呼ばれる、主に秋ごろに捕らえた獲物(昆虫類や鳥、カエル、トカゲなど)を食べずにとがったカラタチなどの棘や折れてとがった枝、有刺鉄線などに串刺しにする習性です。縄張りアピールとか冬用の食糧貯蔵であるとか、食べるときに獲物を固定するためであるとか、カエルやバッタに含まれる毒を天日干しで消している、あるいは捕まえたもののあまり好きではない獲物だったので刺して食べ残した、などさまざまに言われていますが、昨年2019年5月に、モズのオスが二月ごろから繁殖期に入ったときに、メスにアピールする求愛の囀りのためのエネルギー源として消費される、という説が詳細なデータをもとに提唱されました。まだ餌の乏しい時期にいち早く食料を摂取して、すばやくディスプレイ行動に入るため、ということでしょうか。
二月ごろからモズは繁殖期に入り、オスの縄張りをメスが訪問するようになります。このとき、オスは黒い過眼線を見せ付けるダンスをしながら、かわいらしい声で求愛をします。そして地鳴きの合間のぐぜり(サブソング インタープレイ)で、ヒバリやホオジロ、ウグイスやメジロなどの鳴きまねを織り交ぜるのです。モズという名の語源はいくつか説はありますが、「モモ=百 サエズリ=囀り」が縮まったものだと考えられます。モズのオスは、たくみに他の鳥や獣の鳴き声をまねるために「百の舌を持つ鳥」と呼ばれるのです。繁殖期ではない季節にも、しばしばモズが枝に留まって他の鳥の鳴きまねをしていることがあり、その姿は何とものんきで楽しそうなのですが、どうもこれは求愛の時期に向けての練習(一人カラオケ)であるようです。モズ独特の愛らしい求愛ディスプレイ、もし出会えたらラッキーですね。
日本の野鳥 山と渓谷社
古今要覽稿モズの激しい首振り、大きな獲物を仕留める「技」 研究モズの『はやにえ』の機能をついに解明!―はやにえを食べたモズの雄は、歌が上手になり雌にモテる―