今日から秋彼岸に入りました。そろそろ本格的な秋の到来を思わせ、気温はこれから少しずつ秋らしく落ち着いていくようです。ところが、気温とは裏腹にこの秋は芸術が熱いのです。全国で芸術祭や展覧会も目白押しです。それも、浮世絵や仏像など、日本的なものや歴史を感じる作品を中心に展開されています。そんな中、先日「shiseido art egg賞」の2017年度受賞者が発表されました。「美」を追求するブランドが、芸術作家の登竜門として開催するこの賞は、まさに芸術の卵を産みだすものです。今年生み出された卵はどんな卵だったでしょうか?
沖氏の作品は、すべて手仕事によるものです。刺繍と言うと「良いご趣味ですね」と言われてしまいそうですが、それを「芸術=art」へと昇華させたのは何かと言えば、「パッション」に他ならないでしょう。作家自身が母や祖母から譲られた古布を使ったことによる個人的な歴史と、一針ごとにこめられた心の奥行が縦糸と横糸になり、自身の中に眠っていた情熱により、その一針に、紡がれた糸に、愛情が溢れていたことも見逃せません。 この賞の理念の一つに「美しい生活文化の創造」があります。沖氏の作品はまさに、刺繍という昔ながらの女性の手仕事によって、受け継がれてきた布に美を纏わせる「生活文化」の創造物であると言えるでしょう。作品の一つに、針供養に見立てたものがありました。ここには今は亡き人からの伝言を表現したそうです。春にまいた種が秋に実るように、祖母から母へ、母から自分へ渡されたパッションが、この秋実を結んだのでしょう。そしてもう一つ、登竜門と言われる賞では若い方が受賞することが多いイメージですが、沖氏は国内外で個展の実績もある50代の作家です。shiseido art egg賞は、パッションは年齢ではないことを証明したとも言えます。