ヤマカガシはヘビの中でも特に水場を好み、よく泳ぐ姿を見るために、水との関連が顕著です。これが、ヤマカガシが竜のような大蛇になる、というイメージにむすびついたものと思われます。水を泳ぐために適応したと思われる鱗の目立つキール(中央部の突起列)がドラゴンを思わせることも一因かもしれません。
古くより深山や、あるいは土木工事中にとてつもない大蛇が現れて襲われた、というエピソードは後を絶ちません。近年でも、1974年、兵庫県相生市で目撃され騒ぎとなった体長が4メートルに達したといわれる大蛇はヤマカガシだといわれていますし、神奈川の丹沢で見つかったヤマカガシの大型種は、太さが牛乳瓶ほどもあったのだとか。
ヤマカガシの頚部付近から分泌される毒は、ヤマカガシが食べたヒキガエルから取り入れたもので、幻覚性があるといわれます。ヒキガエルの耳腺から分泌する毒ブフォトキシンは、ブフォニン、ブファテニンを含み、幻覚を引き起こします。ヤマカガシは時に、飲み込む前に獲物の風上で鎌首をもたげ、幻覚性のある毒を気化させて獲物を幻覚状態に「呪縛」して飲み込むという戦術を用いるともいわれます。もし、2~3メートルほどの相応の大蛇となったヤマカガシが人間に相対したら、人間はヤマカガシの幻覚毒によりそのヘビを実際よりもずっと大きく感じてしまったかもしれません。こうして、山で30メートルの大蛇に出くわした、といった体験談が多く残ることとなったのかもしれません。このように考えると、人々がヤマカガシを巨大な山の主と考え、その名をあたえたことも、説明できるのではないでしょうか。
そしてもう一つ。ヤマカガシが近年になるまで毒があるとは知られていなかったことは先述しました。判明したのは、1972年のヤマカガシによる咬傷で死亡例を検証した結果によります。それまで知られていなかったということは、昔の人もヤマカガシに毒があるとは知らなかったわけです。人家近くに現れたヘビを打ち殺すという行為は、頻繁に行われていましたが、こうした行為のあと、ヤマカガシにそれと知らずに咬まれる、頚部の毒にやられる、などの被害があったことでしょう。すると、そのあとその人が体調を崩したり失明したり命を落としたりすることも、しばしばあったのではないでしょうか。これを、ヘビの呪力、祟りと考え、ヤマカガシを特別な霊力のあるヘビだと考えるようになったのかもしれません。
ヤマカガシは、これから繁殖期の秋に入りますが、見かけても安易に触ったりいじめたりせず、眺めるだけにしましょう。また、その毒について研究の進んでいないヤマカガシについては、マムシのように血清はどこにでもあるわけではありません。万一のときには、こちらにご連絡を。
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