これをふまえ「ハスの自生地名所」が次々とハスの謎の大量消滅にせまります。
日本でも最大級のハスの自生地として名をはせていた、滋賀県草津市の烏丸半島の琵琶湖岸。岸辺一体の水面およそ13haが6月ごろから一面ハスの葉に覆われ、花の時期には涅槃境もかくあるだろうかと思わせるハスの花の大群落が見られ、熱気球による空からの観光フライト、ボートによる「ハスクルージング」などで観光客を集めていました。
ところが2016年夏、突然この大群落が消滅してしまいました。ハスの葉がいっせいに枯死してしまったのです。その年はハスの花は見られず、滋賀県や草津市は直後から大規模な調査を始めました。
当初、同じように群生地が絶滅しかけた佐賀県の佐賀城公園のお堀端のハスが、大規模な食害をもたらしていた外来種のミシシッピアカミミガメ(ミドリガメ)を駆除することで再生した経緯や、青森県弘前公園では大発生していたアメリカザリガニを駆除したことでハスの群生が再生したことなどの前例から、琵琶湖の場合もカメやザリガニの食害ではないか、などの予想がありましたが、食害はほとんど見られず、地下茎は泥の中で腐敗していました。
詳しく調査した小林圭介・滋賀県立大名誉教授らによると、約20年前と比べて、
・烏丸半島一帯の湖底の土壌が、ハスの生育に適した粘土質の泥土から、砂地に変化していた。粘土層が、波などの浸食を受け、15~39センチほど消失していた。
・湖底のメタンガス(CH4/炭化水素)濃度が、20年前と比較して5~8倍増えていた。
といった変化が見られ、これらがハスを消滅させた原因としました。先述したとおり、ハスの地下茎は水上部の葉から酸素をもらい呼吸しています。しかし土中がメタンガス湧出で満たされると、酸素の希釈で酸素欠乏状態となり、地下茎内の酸素の欠乏にもつながります。こうして、地下茎が呼吸困難で枯死してしまうことは充分考えられます。
琵琶湖だけではありません。岐阜県海津市のアクアワールド水郷パークセンター内の義呂(ぎろ)池も、琵琶湖と同様、2016年に突如忽然とハスの群落が消えてしまったのです。また、埼玉県蓮田市の黒浜沼も同様に2016年、突如ハスの群落が消滅しました。これらはどうも、佐賀や青森の例とは異なるようです。
滋賀、岐阜、埼玉の事例は大群落が一定期間持続していたために、湖底に枯死体が堆積してメタンガスを発生させるという、いわゆる「嫌地(いやち)」(同じ植物が継続して同じ土地で繁殖を繰りかえすと、ある時期から生育が悪くなり絶滅する)に似た現象が起きたものとも考えられます。
…ではあるのですが、徐々にではなく、ある年に突然消滅するという現象の理由も説明できませんし、またこれらが2016年を軌を一にして発生したことも謎過ぎます。一体どういうことなのか。単なる偶然なのでしょうか。今後同じようなことが起きるのか。何かとんでもないことが自然環境に起きていて、私たちが見逃しているのか。注視していきたい出来事です。
ともあれ2017年は昨年のような絶滅の報告は今のところ聞かれません。うだるような夏の一服の清涼剤ともいえるハスの花。今後も華麗に咲き続け、楽しませてほしいですよね。
参照サイト
【草津】なぜ消えた? 烏丸半島のハスの群生。6地点で水中調査を実施