最近毎年思うことは、花見の季節になるとまだ二部咲き三部咲きのちらほら咲いている頃の寒い時期に、勇んで花見に繰り出している人たちの多いことです。なぜそんなに急いで花見をしようとするのでしょう。
「この雨(風)が、花散らしの雨(風)になってしまうかもしれません」というコメントが毎年聞かれ、「今年の桜は終わり」とでも言いたげな宣言が出されます。でも、どんなに雨が降ったり風が吹いても、それで一日で丸坊主にはなりませんよね。
ソメイヨシノは花色が変化する花。花弁のピンク色を作り出しているのはアントシアニン。つぼみの時には大量にある花のアントシアニンは開花後に減少し、全開になったときに最小になります。咲きたてのソメイヨシノを手にとってよく見ていただければ、花弁の付け根がほんのり赤いだけで、全体が真っ白に近いことがわかります。真っ白なリンゴや梨の花と見まごうばかりです。ところが開花して数日たつと、再びアントシアニンの量が増えだします。花の真ん中の花糸(おしべの軸)も白っぽかったのが真っ赤に変わり、花弁も全体がピンク色、つまりあの誰もが思い浮かべる「桜の色」にこのときはじめて変わるのです。ですから散り際こそ、ソメイヨシノの真骨頂でありもっとも美しい姿なのです。
なのに、満開を過ぎた頃から、あれほど桜桜とさわいでいたのに、誰も桜に見向きもしなくなるように感じませんか?クローンのように似たフレーズの多いJポップを皮肉って「桜舞い散りすぎ」という言葉も出るほど、日本人は「舞い散る桜」が好きなはずなのに、桜吹雪の時期の桜の名所は、どこも閑散として、そんな時期に花見をしている人があれば、冷淡な目を注がれかねません。せいぜい子どもたちが、吹き溜まった桜の花びらを手一杯に抱えあげて放り上げて遊んでいる程度。以前はこれほど極端に花見が前倒しになることはなく、舞い散る桜吹雪を楽しむ花見の宴会を見かけた気がします。
さらには、「最近桜の色が白っぽい気がする。環境悪化のせい?」なんていう懸念もちらほら聞かれます。でもそれは映画やドラマ、CMや雑誌などで見る色補正がかけられて実際よりも鮮やかで濃い色の桜を見すぎているためにそう感じることと、そして何より花見の時期が早すぎる、ということが一番の理由です。
基本的には咲き始めから満開の頃は白っぽく、散り際にピンクに染まるものだということに留意して、今年は桜の開花から散るときまで、美しい桜の移ろい行く様子をゆっくり、じっくりと楽しみたいものです。
参照
ソメイヨシノとその近縁種の野生状態とソメイヨシノの発生地
吉野山の桜・吉野観光協会